帝国繊維(3302):「対話の力」で会社は変わるか?
オービックビジネスコンサルタントを「対話型ファンドのターゲット」として取り上げましたが、実際に対話型の投資信託ではどのような銘柄を保有しているのかと思い立ち調べてみました。
モーニングスターのサイトで「対話」、「スチュワードシップ」で検索してみたところ、なんと1件しかヒットしませんでした。少々残念ですが、この1件についてみていきたいと思います。
ヒットしたのは、スパークス・日本株式スチュワードシップ・F 『愛称:対話の力』です。目論見書には当ファンドの特徴を下記ように書いています。
株価と潜在的な企業価値との乖離が大きく、スチュワードシップ責任に 沿って「目的を持った対話」を行うことで、その差が解消される可能性の 高い銘柄に選別投資し、積極的にリターンを追求します。
◆ボトムアップ・リサーチによって株価が割安に評価されている企業を発見し、選別投資 します。
◆「目的を持った対話」が割安状態を解消するカタリスト(きっかけ)となりうる企業に 対して、株主の権利を適切に行使することに加え、企業価値向上に資する施策※を 積極的に提言することがあります。 ※収益力の向上、資本政策の変更、コーポレートガバナンスの改善に関する施策などがあります。
◆保有銘柄数は、市場環境や資産規模等に応じて変わります。
◆参考指数はTOPIX(配当込み)とします。ただし、参考指数にとらわれずに運用いたします。
(スパークス・日本株式スチュワードシップ・F 『愛称:対話の力』目論見書より)
また、構成銘柄の上位10銘柄は下記の通りで(2017年5月末現在)、これら10銘柄でファンドの約3分の2のウェイトを占めています。
モーニングスターのサイトによると、『対話の力』の設定は2014年12月で、直近1年のパフォーマンスは26.62%ですが、同カテゴリー(国内小型ブレンド)では▲17.08%アンダーパフォームになっているようです。同種と言っても「対話型」で比べたものではなく大きく括ると国内小型株で運用する投信との比較で置いて行かれたということでしょうか。
さて、上記10銘柄のうち、今年に入ってからスパークス・アセット・マネジメントが初めて大量保有報告書を提出した銘柄が帝国繊維(3302)です。
提出日:2017年4月10日
保有株式数 1,375,300株
保有比率 5.07%
平均取得単価:1,558円
報告義務発生までの60日間に約20万株の株式を購入しています。
その大量保有報告書の「保有目的」には下記の通りで、単に「純投資」などと記載されていれる報告書も多くみられるなか、非常に詳細な記述となっています。
提出者は、(1)発行者の営む防災事業の高い競争力(災害現場という特殊状況で使用される製品であるため、供給実績に裏付けされた信頼性が参入障壁を築いている)、(2)その将来性(特に東日本大震災以降、政府・自治体に加え企業においても防災意識が高まり、官需とともに民需の増加が同社の成長を牽引する可能性がある)、および(3)経営危機に陥った発行者を再建し、成長軌道に乗せた現経営陣の優れた事業運営手腕、を評価し、平成26年4月から発行者の株式を保有しております。
(スパークス・アセット・マネジメント提出の大量報告書より)
まず冒頭で、帝国繊維の競争力、将来性、また経営陣の経営手腕に対する評価を記載しています。
しかし、直近の業績動向、また、お世辞にも立派とは言えないホームページ上の中期経営計画の内容、本決算時にさえアナリスト・機関投資家向け説明会を開催しないというIRに対する意識の低さ等をみると違和感のある出だしとなっています。
その先を読み進めていくと、下記のように続きます。
一方、株主の視点からは、発行者は資本を有効に活用していないと提出者は考えます。具体的には、防災事業とのシナジーが薄いと考えられる投資有価証券(持ち合い株式)と、投資にも株主還元にも使われない現預金がバランスシート上に蓄積されています。こうした持ち合い株式と現預金が、資本コストを中長期的に上回るリターンを生むことは考えにくく、発行者のROEを将来にわたって低下させる要因となっています。
(スパークス・アセット・マネジメント提出の大量報告書より)
いわゆる内部留保が大きく、手元に現預金が積み上がり、資本効率が悪い企業であると言っているようです。
実際に当社のバランスシートを確認すると、この半年で事業に投資されていない非効率資産(現預金、有価証券、投資有価証券)の総資産に対する比率は66.9%(16/12期末)から77.9%(17/12期2Q末)と11ポイントと、何と80%に迫る状況です。
もちろん、この中には運転資金、戦略提携による株式の保有(投資有価証券)もあると会社は主張するかもしれません(スパークス・アセット・マネジメントは本業とシナジーの薄い持ち合い株式であると主張)。しかし、それを割り引いてもひどい状況です。
提出者は、平成27年4月以降、発行者の代表取締役社長を含む取締役と上記問題点について議論を行ってきました。しかし、発行者はこれまで、資本効率の改善に向けて何ら行動を起こさず、また平成29年2月に公表された中期経営計画においても、資本効率には一切言及しておりません。
(スパークス・アセット・マネジメント提出の大量報告書より)
上記記載からは、会社はスパークス・アセット・マネジメントの主張などどこ吹く風といったところで、対話がうまくいっていない様子が伺えます。
気になったので、大量保有報告書の冒頭で持ち上げられていた経営陣を確認してみると、会長82歳、社長71歳でいずれも富士銀行出身、ほかにもみずほ銀行から役員が送り込まれています。スパークス・アセット・マネジメントの冒頭のコメントは「褒め殺し」あるいは「嫌味」にも思えてきました。
日本経済の再成長に向けて、上場企業における資本効率の改善が求められていることは、スチュワードシップ・コードおよびコーポレトガバナンス・コードに見る通りです。企業とは事業の成果を顧客、従業員、地域社会、株主等のステークホルダーに分配する「社会的な器」です。このような認識のもと、発行者は資本効率の改善を通じて株主ともその成果を共有する必要があります。
(スパークス・アセット・マネジメント提出の大量報告書より)
個人的にはスチュワードシップ・コードにおける「建設的な対話」は投資家と経営者が対話を通じてともに企業価値向上という目的に向かって取り組んでいくというイメージを持っていましたが、このケースは投資家としては当然の主張に経営者が全く耳を貸さないという、残念なパターンと言えるでしょう。
大量保有報告書の「保有目的」では最後を下記のように結んでいます。
上述の考えに基づき、提出者は株主として発行者に対して以下の2点を要請します。
- 投資有価証券を合理的な期間内に売却すること
- 中長期の企業価値向上の観点から、今後の資本配分について明確な方針を示すこと。具体的には、成長のための投資計画と株主還元計画を示すこと
(スパークス・アセット・マネジメント提出の大量報告書より)
投資家としてごく当たり前の主張だと思います。
そして、下記にあるように、最終的には株主総会での株主提案を示唆していると思われる記載もあります。
(保有目的)に記載した目的を達成するため、提出者は、状況に応じて発行者に対して重要提案行為等を行う場合があります。
(スパークス・アセット・マネジメント提出の大量報告書より)
ちなみに、株主総会での株主提案のルールは下記の通りとなります。
「総株主の議決権の1%以上または300個以上(定款で引き下げ可)の議決権を6カ月前(定款で短縮可)から引き続き有する株主に限られる。権利の行使については、株主総会の日の8週間(定款で短縮可)前までにおこなわなければならない。」
次の総会は来年3月といっても年内に何らかの動きがあってもおかしくないでしょう。
株価の動きは地味ながら右肩上がりとなっています。引き続き、ファンド筋が買っているチャートのようにも見えます。
スチュワードシップの名を付けたファンドで大量保有しているのですから、スパークス・アセット・マネジメントとしても意地があるでしょう。「対話の力」を実証すべく動く可能性は高いと考えますが、いかかでしょう。
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